2019年がん罹患数予測(国立がん研究センター)
2020年がん死亡数予測(国立がん研究センター)
【乳癌】年齢階級別罹患率
(2015年 国立がん研究センター)
乳房の中には、乳汁を産生し分泌するための乳腺組織があります。
乳腺組織は、乳汁を作り出す小葉と、作られた乳汁を乳頭まで運ぶ乳管からできています。
乳癌は、この乳腺組織(乳管や小葉)の細胞が癌化し、異常に増殖することによってできる悪性腫瘍です。乳癌の90%は、乳管の細胞(乳管上皮細胞)からできる「乳管癌」です。
小葉から発生する乳癌も5~10%あり、「小葉癌」と呼ばれます。
乳癌には、5つの標準的な治療法があります。(外科的治療、放射線治療、内分泌療法、化学療法、分子標的薬治療)
癌の進行度やサブタイプ分類、閉経状態や年齢などを総合的に判断し、個々人に応じた治療法が選択されます。複数の治療法を組み合わせて行うのが一般的です。
癌の進行度・サブタイプなどを総合的に判断 → 治療方針は個々人に合わせて選択
乳癌の手術治療は、『乳房の手術』と『腋窩(わきの下)リンパ節の手術』を組み合わせて行います。
術前診断から、個々にふさわしい術式(手術での切除範囲)を決定していきます。
癌の治療を適切に行うことが大前提ですが、当科では美容・日常生活面においても個々の希望に可能な限り添えるような術式を検討しております。手術創が目立ちにくい術式(内視鏡手術や乳輪切開・腋窩切開)、乳頭・乳輪の温存、乳房切除術と同時に行う乳房再建術などについても施行可能です。
乳房全摘術が必要な方には、形成外科医と連携し、全切除術と同時に乳房再建術(一次再建)を行うことができます。
自家組織(脂肪や筋肉)を使用
まずは組織拡張期(エキスパンダー)を挿入し一定期間後に人工物(インプラント)に入れ替え
また、乳房切除術後に一定期間経過してからの再建術(二次再建)も可能です。
乳房部分切除術(温存術)後は、原則的に残った乳腺に対して術後放射線療法を追加します。
また、癌の進行度によっては、術式に関わらず周囲組織(胸壁やリンパ節など)に放射線療法を加えることもあります。
放射線療法の目的は、高エネルギーの放射線を用いてがん細胞にダメージを与え、 成長を止めることにあります。 放射線療法は手術と同様に、治療を受けている範囲の細胞のみに効果を及ぼす局所療法です。
乳癌組織中に、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)に対する受容体(エストロゲンレセプターERおよびプロゲステロンレセプターPgR)がある場合は、『ホルモンレセプター陽性乳癌』といわれ、『ホルモン感受性がある』と判断されます。
日本人では、乳癌の約70%がホルモンレセプター陽性です。
ホルモンレセプター陽性乳癌の場合、エストロゲンが受容体を介して、乳癌細胞に増殖の刺激を与えています。 このエストロゲンの乳癌に対する作用をなくし、乳癌の増殖を抑えようというのが、内分泌療法の基本的発想です。エストロゲンを抑制する薬剤を使用することで、乳癌再発リスクの低下や腫瘍の縮小が期待できます。
乳癌のサイズが大きかったり腋の下のリンパ節に癌細胞が転移していたり、総合的に判断して、再発や転移の危険性が高い場合には、 手術前または後に化学療法を行います。
乳癌は比較的化学療法の効果が期待できる種類の癌で、現在多くの抗がん剤治療がなされています。抗がん剤は活発に分裂・増殖しようとする癌細胞に働きかけてダメージを与える薬剤ですが、 正常な細胞でも分裂・増殖が活発であれば同様のダメージを受けてしまいます。(血液細胞、消化管粘膜、毛髪細胞など)
このため、抗がん剤の副作用として白血球減少、貧血、脱毛、口腔粘膜びらんや下痢などが現れることがありますが、近年では副作用対策がすすみ、日常生活と化学療法を両立できるようになっています。
化学療法は、手術前に行う場合と手術後に行う場合がありますが、どちらの時期に行っても再発の可能性や生命予後は変わらないといわれています。化学療法を行うことで、乳癌再発リスクの低下や腫瘍の縮小が期待できます。
癌細胞では、遺伝子の一部が変異していたり増幅していたりする異常が起きることが多いのですが、乳癌の場合には、約10~20%の割合でHER2(ハーツー)という遺伝子と蛋白が過剰に作られるという異常が認められます。
HER2の過剰増幅が認められるタイプの乳癌には、このHER2蛋白に対する抗体(働きをブロックする物質)を用いた分子標的薬治療が行われます。抗がん剤との併用でより効果を発揮することがわかっています。