人工膝関節について

人工膝関節とは

人工膝関節置換術は、変形性膝関節症や関節リウマチなどにより変形した骨の表面を、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工膝関節で入れ替えることです。太ももの骨(大腿骨)やすねの骨(脛骨)の表面を数mm~1cm程度削って金属を入れてきます。金属と金属の間には軟骨の代わりのポリエチレンが入ります。人工関節を行うことで、痛みが無くなり、歩行能力や生活が画期的に改善されます。

人工膝関節には、関節全体を変える人工膝関節全置換術(TKA:Total Knee Arthroplasty)と、一部分だけを変える人工関節単顆置換術(UKA:Unicompartmental Knee Arthroplasty)にわかれます。一般的に広く行われているのはTKAです。

人工膝関節

TKAとUKAの違い

TKAは膝の中のどこが悪くても、どんな靭帯が傷んでいても手術可能です。
しかし、UKAは内側(時には外側)だけが傷んでいる時で、前十字靭帯が傷んでいると手術できないなどの制限があります。反面UKAの方が術後も膝がよく曲がったり、膝の違和感が少なかったりします。

人口膝関節置換術の手術の方法

手術は全身麻酔や下半身麻酔で行います。
手術中は、ターニケットという血圧計のようなものを太ももの根元に巻いて、出血しないようにして手術を行うことが多いです。

皮膚切開

皮膚の切開は中央よりやや内側を縦に切開することが多いです。
最近では膝をつく動作を行いやすいように、やや外側を切ることもあります。長さは10~15㎝程度で、変形の強さや肥満の程度によっても変わってきます。

関節包切開

関節面の骨を見るために、関節近傍の筋肉や、関節周囲の袋(関節包)を切開します。
この切開の仕方には、いくつか方法があります。どの方法で切るかが、術後の痛みに非常に強くかかわってきます。当院では、筋肉を傷つけないで済み、疼痛の少ない方法(サブバスタスアプローチ)で行っています。

サブバスタスアプローチとは

骨切り

あらかじめレントゲンなどで測定した角度に合わせて、インプラントの厚み分骨を削っていきます。
この時の骨切りの角度や量を調整することでO脚だった膝が真っすぐになり、膝がスムーズに曲げ伸ばしできるようになります。

インプラント設置

本物のインプラントを挿入します。インプラントは骨のサイズに合ったものを入れてきます。
インプラントと骨の接触面は骨セメントを入れてくる時が多いですが、骨セメントを使用せずに止めてくる時もあります。

当院の人工膝関節の工夫

跪き(ひざまずき)動作を可能とする外側皮切

人工膝関節の術後に膝を床につこうとすると、痛くてつけない、怖くてつけないという方が多くいます。
手術の傷が、床と当たっているから痛いのが原因ではないかと、以前は皮膚の切る場所をやや膝の内側にする工夫なども行われました。しかし、膝の真ん中を切った場合だけでなく、内側を切って傷が床と当たらないようにしても、膝をつくことができない方が多くいました。

最近になり、皮膚の下を走っている伏在神経という細い神経が関係していることが分かってきました。そのため、皮膚の切開を膝のやや外側に行うと、膝をつける方が増えることが分かってきました。外側の皮膚切開では手術が難しいこと欠点ですが、当院ではほとんどの患者さんに外側皮切で手術をおこなっております。人工膝関節の手術を行うときは皮膚を縦に切開しておこないます。

人工膝関節

筋肉を切らないサブバスタスアプローチ

膝位関節内を手術するため、どの部分を切って関節内に到達するかが、術後の痛みに関係してきます。

大腿四頭筋を真ん中で切開したり、やや内側で切開すると、手術は容易に行えるために多くの病院で行われています。しかし、この方法では筋肉を切るため、術後の痛みが強いことが問題です。

どの筋肉の間から手術をおこなうかを手術アプローチというのですが、当院ではサブバスタスアプローチという筋肉を全く傷つけず、筋肉の下で切る方法でおこなっております。
この方法は皮膚を切る量もが少し多くなってしまいますが、筋肉を傷つけないので、術後の痛みが非常に少ない方法です。

このように筋肉などを切らないで、体を傷つけること(侵襲)を減らした手術方法を最小侵襲手術(MIS)と言います。

人工股関節

痛みのコントロールのためのマルチモーダルアプローチ

この十年間で、人工膝関節術後の痛みを減らす方法は大変進歩しています。痛みの少ない『最小侵襲手術(MIS)』、膝に向かう神経を麻酔する『神経ブロック』や、関節周囲に麻酔薬や止血剤を注射する『カクテル注射』、痛み止めの複数使用や定時使用などが工夫されてきています。当院では、最小侵襲手術であるサブバスタスアプローチを用いて、手術終了直前に膝関節周囲に鎮痛薬を注射しています。

また、術後は痛みが出てから痛み止めを使用するのではなく、痛みを感じる前のタイミングで定時ごとに痛み止めを使用しています。このような工夫で、手術当日の夜も、しっかりと眠ることができます。